おれが思い浮かべる春のイメージは、どんどん芽が出て来る感じ。
ひっきりなしに、次から次へと。どうしようもないくらいに、止まる気配なんてないくらいに。
春は、そういうイメージ。
うるさいとか、にぎやかとか、そういうのも超えて、わらわらと、どうしようもない感じ。
世界樹に来ると思う『ここの春はニセモノだ』と。
静か過ぎて穏やか過ぎて安らかで、ニセモノだ。と。
リアルの春は寒くて凍える。暖かさなんて、これっぽっちもない。
ときどき初夏のような日差しが昼間に限って降り注ぐけれど、それは熱い。
熱過ぎる。
極端なんだ。
春はニセモノ。
ちょうどいい感じなんて、これっぽっちもない。
でも、なぜだろう。
とても、嬉しくなる。
狂気が満ちているからだと思う。
春は空気に狂気が満ちている。
すまし顔なんて意味ないのさ。
おしとやかそうに見える彼女が、いつもとは比べものにならないくらい短いスカート。
階段を駆け昇って、くるくると踊り狂うんだ。
なにもかもを壊すような勢いで、
やわらかい生地が空気を切り裂いていく。
だからこそ安心できる。
おれは安心して、彼女を信頼できる。
そうさ。狂える人間だけが、信頼できるんだ。
自分の狂気を受け入れて、世界の狂気を肌で感じつつ、相手の狂気を感じ取る。
そうでなければ信頼関係なんて築けないだろう。