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空色の渚オンライン

MMORPGオンラインゲームで遊んでいます。 サービス終了したゲームの記憶もつづります。 現在進行形&過去進行形。 ポエム&ノベルを書いてます。

いつもの名残惜しさ

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いつもの名残惜しさ

ログインすれば誰かがいる。
そんな、あたりまえのこと。だけど違う。特別なこと。
ぼくにとっては、ログインして誰かがいることすら奇跡のように感じられる。
モニターの画面は狭いけれど、その向こうに広がっているのは広大な広場。
夏のように輝いている空と、とびちる噴水の飛沫。
知らない人、知らない名前、それでもいい。誰かがいる。
通り過ぎていくだけの景色でも、じゅうぶん。
ぼくは時間を忘れて、じっと眺めていた。

正直なところ、体は疲れていて、もうどうしようもない。
けれども早く寝たからといって、この疲れが回復するわけじゃない。
ぼくは知っている。精神的なもの。解放されたいが束縛されている。
だから広場を眺めているだけの時間でも、じゅうぶんな休息になる。
これで誰か友だちがいれば。そう思うこともある。でも、それには。

ゲームは好きだが、何回も同じプレイを繰り返すのは得意じゃない。
βテストの頃は、なにもかもが新鮮で楽しかったし、フェスのようだった。
正式サービスに移行してからも、しばらくは興奮状態が続いていたし。
あの頃は、ギルドが存在していた。
特に誰が作ったというわけでもなく、
誰かが言いだしたというわけでもなく、
なんとなく、
「ギルド創ろうよ」
と話をして、
「どうすればいいんだっけ?」
と話が続いて、
気づいたらギルドが出来ていて、
自分もメンバーになっていた。
「なんだ簡単だね」
「これで連絡すぐ」
「なんか楽しみぃ」
本当に楽しくて、あっというまで、いつもログアウトは名残惜しかった。


ギルドのメンバーが来なくなったのは、いつからだろう。
今日は、たまたま。明日は、どうかな。
そんな連続の中でも、他のギルドの友達や知り合いと遊んでいたから、
ギルドでログインしているのが自分だけの日が続いても、
それほど気にならなかった。

ある日ふと感じた。
もう誰も来ないんじゃないのか、と。
急に怖くなった。ありえない。誰が来るよ。
来なくたって、淋しくなんかない。ゲームじゃんか。
なのに心臓が、いつもと違って息苦しい。

本格的に疲労がたまっているんだろう、
たまには休まなきゃ。
しっかり睡眠時間も。
そうそう入れ込み過ぎかもしれない。


いつもの名残惜しさではなく、
なんだかログアウトしてホッとしている自分に気づいたとき、
そろそろ潮時かなって考えてしまった。

もう、そろそろいいだろう。いいよな。
別に誰かを待っていたわけじゃない。
誰かがログインしてくる瞬間を待ち焦がれていたのかもしれないけれど、
そう考えたとたんに自分で自分の考えを打ち消している。
そうさ、潮時。ぼくも去ろう。胸の奥で、ひとりごとをつぶやいた。


ログインして広場にいる。いつものように。
人は通り過ぎるが、知っている名前は見かけない。
新しい人たちだろうか。
話したことがなくても、せめて見かけたことがあるくらいなら。
でも無駄、知らない名前ばかり。だと思う。
しょうがないさ。
もう、じゅうぶん堪能したじゃないか。
自分で自分に言い聞かせる。
ギルドのチャットが使われなくなって、
ひとりごとが胸の奥で響き渡るようになっていた。
もう忘れてしまったよ。と言いたくなるほど。
チャットって、どうやるんだっけ。
最初は不慣れで、でも知り合った仲間たちとクエに取り組んでいるうちに、
チャットが自然にできるようになっていた。と思う。

いま、もし、誰かと話をするとしても。


「あの」
そんなときだった。

「すみません」
言葉が入ってきた。

「あの」
誰だろう。知らない人だ。
誰と話をしているのかと見渡したが、該当するような人が。
「おれ?」と試しに打ってみる。
「はい」

今週から実装されたと、うわさの新しい制服。と、装備。だろうか。
「あの。クエしませんか」
「クエですか」
「人数が必要で」
「OK」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

簡単な会話で始まって、クエをすることになった。
初対面、だよな。うん、間違いない。
「四人のクエですか」と質問してみる。
「です」と彼女が言う。
彼女。冬服、蒼いマントを肩からかけて、白いプリーツのミニスカート。銀色のブーツ。
手には長い槍のような武器。
「その武器、初めて見ました」と言うと、
「これ、昨日のクエで手に入れました」と答えが。
「見たことないかも」
「そうなの?」
「うん」


広場の奥にある温室に入り、クエの場所に向かう。
地下室フィールドの、発電所起動クエストだった。
四人が揃わなければ、起動できないクエだ。覚えている。懐かしい。
「おまたせしました」と彼女が言う、
「お。来た来た」
「これで揃ったね」
「よろしく~」
「よろしくお願いします」と、ぼくは言う。
すぐにゲートに入り、クエは始まる。
それ以上の挨拶はなく、会話というより淡々と言葉を投げあう感じでサクサク進む。

こんなに、あっけなかったっけ?
βテストの頃は、かなり大変だった印象があるので、サクサク進むと意外に感じる。
しかも早い。もう起動スイッチの場所に着いた。
みんな動きが慣れている。何度も繰り返し、まわしているのかもしれない。
もしかすると制服や武器がドロップするのかもしれない。
レア狙いだろうか。

「いくよ」
「せ~の」
「OK!」
「はい」
発電所が起動した。達成。あっけない。でも、なんだか嬉しい。
懐かしい。このクエを遊ぶなんて久しぶりだ。ぜんぜん楽。昔と違う。
ファンファーレが響いて、武器がドロップされた。
これか。
彼女が持っていたのと同じ槍が、ぼくにも出た。
「レアおめでとう」と、ひとりが言う。
「おめ~」
「ありです」
「お」ぼくも言う「おめ~」ただし、なにがレアなのかは分からなかった。
「いやいやいや。きみだよ、きみ」と、ひとりが言う。
「お」ぼくか?
これ、レア武器だったのか。


「ありがとうございました」と彼女が言う。
「ありがとうございました」ぼくは言う。
「またね」
「またに~」
「はい。またぜひ」
「よろ~」

名前と顔とギルド、ぜんぜん覚えられなかった。
あっさりしたものだ。
でも楽しかった。久しぶりに楽しかった。
クエが終わって、パーティーが解散したというのに、いや、むしろ解散してからの方が、じわじわと感動している気がする。こんなに楽しかったんだな、と。
誰かと遊ぶ、そのことが久しぶりだった。
チャットで困らなかったのも、さいわいだ。
サクサク進めるのも悪くないな。と思った。

ぼくの所属しているギルドは、おしゃべりが多い。
いつも、いつも、チャットが賑わう。
チャットしていて、ゲーム中に「やられてしまう」なんて日常だったから。
「チャット死、上等!」
「いえい」
「b」
「b」
賑わっていて楽しくて、いつも時間が早く流れて、ログアウトは名残惜しくて。

でも、なんだろう。
今日の、この感じ。悪くない。あっさりしていて、物足りなくて、でも、悪くない。
むしろ心地よいくらいだった。

そういえば他の人たちって、どんなふうにゲームで遊んでいるんだろうな。
今まで考えもしなかった。
βテストで賑わっているときに、いつも顔を合わせる連中と友だち登録して、そのままギルドを創って、いつものメンツでクエをこなして、そんな毎日だったから。
そっか。
初めて会った人と遊ぶことそのものが久しぶりなんだ。

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